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  • 執筆者の写真Joe

コンサルタントの仕事は「説得すること」~ロジカルだけじゃない説得~

更新日:2020年7月23日



コンサルティングの仕事は、課題の発見、解決だとよく言われます。

課題の発見、解決と偏に言っても、最近は戦略立案だけでなく、実行までサポートするコンサルティングファームが多いですので、大まかには下記のようになります。

仮説構築 調査・分析による仮説検証 意思決定のサポート 施策の実行

というような形になります。


実際の業務でみると、調査・分析が多いですし、また巷では「コンサルが教える分析手法」とか「コンサルが教える資料作成術」といった本が溢れていますので、調査・分析がコンサルタントの仕事と思っている人も多いですが、本当に重要なのはクライアント社内の人の説得を含めた意思決定のサポートなのです。


意思決定のサポートとは、社内会議における議決だけにとどまらず、意思決定にいたるまでの社内のコンセンサス形成であったり、担当者のモチベーション向上であったり、ステークホルダーの巻き込みといったことも含まれます。


ここで重要になってくるのが、「他者を説得すること」であり、コンサルタントはクライアント社内の「説得請負人」であるという側面があります。 場合によっては社外の説得も必要となってきます。



人を説得する方法はいくつかありますが、コンサルタントとしては論理的に説得していくケースが圧倒的に多いです。

しかしながら、会社組織は論理だけで動くものではありませんし、論理だけで物事を考える人も世の中にはあまりいません。




下記のようなことがビジネスでよく使われる(無意識に使われている)手法です。 論理的、またそれ以外の説得方法をまず少し見ていきましょう。




ロジカルだけじゃない説得手法


論理的(ロジカル)

コンサルタントは主にこの論理的な手法で説得をします。仮説を構築し、それを裏付けるファクトを集め、論理的に提案をしていきます

例えば、「市場環境、競合の状況、顧客ニーズなどを分析した結果、○○をすべきです」というような形です 第三者であるコンサルタントに求められているのはこういったファクトに基づいた提案や客観的な意見であることが多いかと思います ただし、社内政治や業界のしがらみなどが絡むときは論理的にいくら説明しても効果が薄いこともあります




心理的(サイコロジカル)

ビジネスにおいて、特に営業や交渉の場面などでは頻繁に心理を利用したテクニックが使われますが、社内で了承を得るときなどにも案外使われています 例えば、社内会議で売上目標を上司と合意するといった場面において、プレゼンテーションの最初に、市況の変化によってどのプレーヤーも苦しんでいるといったことを説き、期待値を下げておいて、最後に「こんな厳しい状況の中でも、今期はこれだけ売上を上げます!」と声高に宣言すると「こんな状況の中こいつは頑張ってるな」と思われて合意が得られやすくなります。こういったようなことはやる人が多いのではないでしょうか また、高い目標を掲げて到達しないよりも、低い目標を掲げてそれを達成するほうが評価にもつながるという減点法で評価しているのが日本企業ですので、目標をできるだけ低く設定したいという人は多いでしょう




情熱的(パッション)

特に新規事業やまだ世の中にない新商品の開発などにおいては、情熱(パッション)が重要となってきます もちろん、市場環境、競合環境、顧客ニーズなどいろいろと調査した上で、という前提ですが、新規性の高いビジネスほど「やってみないとわからない」ことも多いですので、そうした時には担当者のパッションやモチベーションが非常に重要になってきます 勢いのある若手に「どうしてもやりたいんです!やらせてください!」とせがまれれば断れなかったりするものですよね




権威的(オーソリティ)

業界のキーパーソン、大学教授、インフルエンサーが○○と言っている、業界のリーディングプレーヤーが○○をしている、政府の方針によると今後○○のようになる見通しである…といった権威を利用した説得手法です 日本人は権威や肩書に弱いのでついつい従ってしまいます




同調的(フォロー)

他社がみんなやっている。業界では○○がスタンダードになっているといった「他の人がやっているから自分もやる」という実に日本的な発想です。案外日本企業はこれで動いたりもします。「他社がやってるのでうちもやらなきゃ」と言って目的もないままに何か始めるというようなことが往々にしてあります

自社がマーケットフォロワーのような立場であればなおさらです




大義的(ソーシャルグッド)

SGDs、社会課題の解決といった大義名分を掲げることで、単純に否定ができなくなります。「温室効果ガスを減らすべきだ」とか「途上国の労働者の人権を守るべきだ」といったことに真っ向から反対する人はあまりいないでしょう ビジネスにSGDs、社会課題の解決などを絡めて語るのは最近の流行りであるようにも感じます


また、業界で長年にわたって存在していた非効率や悪習、所謂業界内の「不」を解決するという大義名分を掲げることも多いです。ただし、この場合は、業界内に長く存在していた慣習を断ち切るということで、他のプレーヤーから締め出しにあう可能性もあるので二の足を踏む人は多いです


政治的(ポリティカル)

社内の人間関係を理解した上で、個別に根回しをして合意をとっていくという日本的な方法です

筆者がオックスフォードのビジネススクールにMBA留学していたときには、「根回し」がそのまま英語になって、「Nemawashi」として日本の合議型のビジネスが紹介されていました 特に他部署を巻き込まないと前に進まないというような場面においては、社内のパワーバランスを理解することもさながら、利害についても深く理解する必要があります。「このプロジェクトが成功すればあなたの部署に○○のようなメリットがある」、或いは他部署の人達の不利益になりそうな場面では、「確実に不利益を回避する」、或いは「協力してくれたらリスク以上の見返りがある」というような説明も必要になってきます


トップダウンで上から下を説得してもらう、もしくは職位が同列であっても関係性が上下関係にある、或いは親密な関係にある人に説得してもらう…といったように「人を説得できる人」をまず口説いてからその人に別の人を説得してもらう、というようなやり方もあります

このような根回しは、ほとんどの会社でやられていることだと思いますが、人間関係図(ステークホルダーマップ)のようなものを作成したりして戦略的にやっている人は少ないのではないでしょうか


危機的(アージェンシー)

このままビジネスを続けているとどんどん競合に負けて顧客が離れて業績が赤字に転落していく…といったような危機感をあおるような形で説得するやり方です 社内の改革をやるときなどによく使う手法で、まずは危機感を煽ることから改革プロジェクトを始めます



このような手法は世に存在する説得手法のほんの一部だとは思いますが、上記のようなことが会社組織においてよく用いられる手法ではないかと思います

どれか一つの手法でやるというより、全部組み合わせてやるというのが重要であり効果的です




コンサルティングもロジカルのみでは立ちいかなくなっている?!


コンサルティングファームがこれらのようなことをやっていないかと言えば、既にやっているところもありますし、成果物も調査・分析結果をまとめたパワーポイントの資料だけではなく、別の形の成果物も作るようになってきています



数年前、私がコンサルティングファームにいたときには、コンサルの現場ではパワーポイントによる分析資料だけでなく、プレゼンにアニメーションや動画を取り入れたりし始めていました 典型的なものを例にあげると、企業の改革プロジェクトをスタートさせる際に、顧客へのインタビューを行い、顧客がクライアント企業の商品やサービスに対する不満をぶちまけている映像を社長以下執行役員の前で流し、危機感を煽るといったものです(もちろん顧客のプライバシーは保護された状態です)

紙に書かれているのと実際に顧客が話しているのとでは聞いている側のインパクトが全く違います。顧客の口から直接的に聞いていて耳の痛くなるようなことを聞くのですから、嫌でも改革が始まるというわけです。


冒頭にも書きましたが、多くのコンサルタントは論理的な手法で人を説得します。なぜならそれが彼らの価値であり、コンサルタントは第三者として冷静に分析や調査を行い、ファクトに基づいた意見を言う。情熱を持ってビジネスを語るのはクライアント側企業の担当者であるべき。というような形が一般的な見方でしょう


調査や分析をして終わり、というのでは調査会社と変わりません。人を説得するためには、コンサルタントも場面によって、第三者として客観的に意見を言うことが必要なときもあれば、時には情熱的に物語を語り、時には政治的に立ち回り、時には社内の危機感を煽る…といったことが必要です



さもなければ、コンサルタントが、報告会で調査・分析の報告をし、PPT資料を納品し、去っていったあと、「あれ、コンサル雇ってなんか意味あったんだっけ?」というようなことになってしまいます。

実際に、私がコンサルをやっていたときに常駐先のクライアント企業で、クライアントが引き出しから以前雇った別のコンサル会社の資料を取り出し、「そういえば、以前似たようなテーマでコンサルを雇ったことがあったな。すっかり忘れてた」と言う場面もありました



このように、コンサルタントの役割は論理的思考を武器とした調査・分析・提言を行う従来のやり方に加えて、あらゆる方法でクライアント企業を動かすことが重要になってきます








筆者



西垣和紀


高校中退後、数年間仕事を転々とした後、渡米。アメリカの大学を卒業後、外資系コンサルティングファームに入社し、大企業の戦略策定、M&A、業務改善、新規事業創出などに従事

その後、オックスフォード大学MBAを経て、ロンドンのスタートアップで事業責任者、外資系企業のCOO(最高執行責任者)などを歴任し、現在はヨーロッパと日本を行き来しながら様々なビジネスの立ち上げや企業のアドバイザーとして活躍 また、音楽活動をしており、アメリカ西海岸のレーベルと契約、海外フェスへの出演やイギリスのトップアーティスト「ピクシー・ロット」などと共演


カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)マネジメントサイエンス専攻 オックスフォード大学サイードビジネススクールMBA(経営管理学修士) ペンシルバニア大学大学院コンピューターサイエンス専攻



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