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スカイプマフィア、規制のサンドボックス、ロンドンのスタートアップエコシステムのすごさ



スタートアップエコシステムと言うと、シリコンバレーばかりが注目されていますが、スタートアップエコシステムのランク付けを行っているStartup Genomeのグローバルエコシステムレポートによると、シリコンバレーが1位で、ロンドンはニューヨークと並んで2位となっており、世界的なスタートアップエコシステムと言えます。

ロンドンは、フィンテックだけでなく、エドテック、AI、ヘルスケア分野のスタートアップも育ってきており、資金調達、人材の豊富さ、コミュニティの充実といった面から非常に優れたエコシステムであるということが言えます。


資金調達のしやすさ

Tech Nationによると、2019年のVC投資は£101億(約1.4兆円)となっており、日本の2019年VC投資額は一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターによると2162億円なので日本の約6.5倍程度です。 2018年は£63億(約8,820億円)ですから、2019年は非常に前年度に比べて増えています。

下記をみると、1億ドル(約105億円)以上の資金調達ラウンドも多いです。



Startup of Londonというメディアによれば、イギリスには11,770もの投資家が存在し、そのうち4,489はロンドンにいるそうです。

コロナ禍でスタートアップの資金調達に陰りが見えていると言われていますが、現地のベンチャーキャピタルの知り合いに話を聞くと、「投資を縮小するつもりはない」と言い、今はリモートでスタートアップと投資の会議もできるので、一度も直接会ったことがないスタートアップに投資をするということも最近は増えているようです。 ちなみに、最近は次のラウンドまでのブリッジファイナンスとしてコンバーティブルノートなどで調達を行うといったケースも増えているようです。

シリコンバレーなどに比べてロンドンはスタートアップファウンダー、エンジェル、投資家などにおいては地味な印象があるかもしれません。 「ペイパルマフィア」というペイパル創業者のピーター・ティールなどの起業家、投資家などシリコンバレーで大きな影響力を持つ人達を指す言葉がありますが、ロンドンにおいても、同じような人達が存在すると言われています。

例えば、「スカイプマフィア」がその一つです。 スカイプはエストニアのイメージが強いと思いますが、オペレーションはイギリスでやっていました。 フィンテックの代表的な企業であるTransferwiseの創業者はスカイプの一人目の社員のターヴェット・ヒンリクスですし、アイリーン・バーブリッジというPassion CapitalというVCを運営している人はSkypeのプロダクトディレクターで、Monzoなどのフィンテック企業に投資をしています。

このように、スカイプのような革新的と言われたヨーロッパの企業がスタートアップシステムで必要な人を生み出すのに寄与しています。

人材の豊富さ

ロンドンの人材のダイバーシティと質は非常に優れていると思います。 ロンドンの人口の構成としては、ロンドンに住んでいる人の約40%がイギリス国外で生まれた外国人であり、世界中からトップクラスの人材が集まっています。


ロンドンの人材市場は非常に競争率が高く、オックスフォードやケンブリッジなどの名門大学を出ていても倍率が高すぎてロンドンで一流のホワイトカラー職に就くのは難しいです。

LinkedInで何人が求人に応募したかが表示されて分かるようになっていますが、イギリスと日本で同じ会社の同等の求人を見比べてみると、日本ではせいぜい倍率は数十倍、イギリスでは数百倍~千倍と、日本の労働市場はほとんど日本人ですが、ロンドンでは世界中から求職者が応募してくるので人材市場は非常にコンペティティブです。 私のオックスフォードの同級生で卒業後はロンドンで働きたいと言っていた人達がたくさんいましたが、多くはロンドンでの就職をあきらめて地元に帰っていったり他の地域で就職したりしています。

AIやデータサイエンスなどの分野での高付加価値人材も充実しており、アクセンチュアのUK Tech Talent Tracker Reportによると、ロンドンでは、42.2万人のプロフェッショナルがデータサイエンス、AI、ブロックチェーン、量子コンピューティングなどの先端分野で働いているそうです。

ロンドンには、インペリアルカレッジやUCLなどの名門大学があり、またオックスフォード大学やケンブリッジ大学の卒業生もロンドンの高付加価値な労働力に寄与しています。

AlphaGoという人間のプロ囲碁棋士を初めて破ったことで知られ、また、Googleに買収されたDeepMindはイギリスの企業です。

Brexitによって人材流出の可能性が指摘されていますが、幸か不幸かCovidによってリモートワークが劇的に進んだので、ホワイトカラーの人材についてはあまり変わらないどころか、周辺国などにいながらイギリス企業で働くといったこともできるのではないかということで、むしろ人材の幅が広がるのではないかともいわれています。

エコシステムプレーヤー

Nestaというメディアによると、イギリスには約200のインキュベーター約250のアクセラレーターが存在するそうです。


Level39というテックスタートアップハブが特に有名で、テックスタートアップや金融機関、アクセラレーターなどが入居するスタートアップコミュニティです。私もオックスフォードの学生のときに訪問したこがあります。

ちなみに、私が以前運営に携わっていたヨーロッパ最大のアクセラレーターであるStartupbootcampもイギリスでは有力なアクセラレーターで、ロンドンでシェアオフィスなどの運営もやっていました。


Level39に入居している会社はこちら(https://www.level39.co/members/)でみることができますが、たくさんのスタートアップをはじめ、HSBCやCiti bankといった金融機関、投資家などが入居しています。また、UCLのマネジメントスクールなどのアカデミアも同じビルに入居しています。 朝に規制当局と打ち合わせをし、午後に金融機関の顧客と打ち合わせをし、夜にアカデミアの人達との打ち合わせをするといったのがLevel39の入居者の典型的な1日と言われています。


シティオブロンドンが金融街でロンドンの金融産業の中心地ですが、Level39のあるカナリーワーフもシティと同様に金融街であると同時に、フィンテックの集積地ともなっています。また、最近はショーディッチリッチモンドなどの地域においてもテックスタートアップがでてきています。

政府がスタートアップ向けに行っているイニシアティブもいくつかあり、例えば、Global Entrepreneur Programme (GEP)(グローバルアントレプレナーシッププログラム)は海外の起業家がイギリスでビジネスを行うためのサポートを提供しています。

消費者に資産運用サービスを提供するNutmegや人工衛星のデータを使ったソリューションを提供するOrbital Micro SystemsなどはGEPを使ってアメリカからイギリスに拠点を移しました。

また、政府がおこなう別のイニシアティブであるTech Nationは、アクセラレータープログラム等を提供し、Revolut, Monzo, Deliverloo, Farfetchなど有名なスタートアップが参加しているほか、Tech Nation Visaというテック人材向けのビザを提供し、テック人材のイギリスへの誘致も積極的に行っています。

スタートアップを支援する政府

ロンドンが世界的なエコシステムとなっている理由のひとつとして、イギリス政府や規制当局の後押しも大きいです。


そもそも、イギリス政府自身のデジタル化は非常にスピードが早いです。 NIナンバー(マイナンバーに相当)は早い段階から普及していますし、税金の控除や会社の設立など全部オンラインでできますし、NHSという国民保健サービスのアプリで病院のアポがすぐにとれたり、自分の診察履歴が見れたりします。 CovidのトラッキングアプリもNHSがすぐに開発をしたり、政府系機関が非常にリーンに動いています。


「規制のサンドボックス」という考え方がありますが、テックスタートアップなどが保有する革新的な技術の検証などを行うために規制を一部緩和したり、規制がまだ存在しない分野についての実験を一時的に許可したりするものを意味します。 日本で最近導入が始まっていますが、もともとイギリスで2014年にはじまったもので、イギリスは一歩先を行っていて、他の国の規制機関と連携したグローバルサンドボックスという構想も進めていて、既にアメリカのいくつかの規制当局もこの枠組みに入っています。

また、イギリスを含むヨーロッパでは、GDPRによる個人情報保護やKYCなどによるアンチマネーロンダリングなどのテックに関わる問題への取り組みが進んでいます。

世界一レジリエントなロンドンの起業家

今、イギリス国内は日本では想像がつかないくらいカオスな状況となっています。

ブレグジットではNo dealになる可能性もあり、そうなると経済に深刻なダメージがあると言われていますし、コロナウイルスは世界の中でもイギリスを含むヨーロッパが深刻な被害を被っています。また、Black Lives Matter運動(BLM運動)でイギリスの都市部で暴動が起こったりと、非常に大変な状況です。


このような状況にも関わらず、知り合いの起業家達に話を聞くとこの状況を非常にポジティブにとらえています。 ブレグジットによって、イギリスだけじゃなくて世界に目を向けるようになった、コロナによってデジタル化、リモートワークが加速した、BLM運動によって人材のダイバーシティを向上させるきっかけとなった…といったようにこの危機的な状況をポジティブに変換しようとしています。


いくつかのテックスタートアップはコロナ禍においても好調のようで、例えば、ヘルスケア領域でいうと、Echo Pharmacyというロンドンのオンライン処方箋サービスはコロナ禍で顧客ベースを3倍に増やしたそうですし、AI診療のバビロンやリモートで患者のモニタリングができるHuma、リモート診療のPush doctorなどはNHSで既に導入されており、ニーズが高まっています。

また、エドテック界隈も好調なようで、イギリスにはクラウドコンピューティングトレーニングのCloud Guruなど有名なエドテック企業が存在します。

まとめ

いかがでしょうか。ロンドンは非常に優れたスタートアップエコシステムであることがお分かりいただけたと思います。 単に優れたエコシステムであるというだけでなく、コロナ禍においてもビジネスを成長させていけるようなたくましい起業家、それを支えるVCなどのプレーヤーがいます。


筆者がファシリテーターとして参加し、イギリスのエコシステムや日本企業と海外スタートアップとの協業などについて議論したイベントがありますので、リンクを貼っておきます。興味があればご覧ください。

https://www.startupgrind.com/events/details/startup-grind-osaka-presents-navigating-corporate-culture-and-international-innovation-ecosystems-with-masako-eguchi-bacon/#/



筆者

西垣和紀


高校中退後、数年間仕事を転々とした後、渡米。アメリカの大学を卒業後、外資系コンサルティングファームに入社し、大企業の戦略策定、M&A、業務改善、新規事業創出などに従事

その後、オックスフォード大学MBAを経て、ロンドンのスタートアップで事業責任者、外資系企業のCOO(最高執行責任者)などを歴任し、現在はヨーロッパと日本を行き来しながら様々なビジネスの立ち上げや企業のアドバイザーとして活躍

また、音楽活動をしており、アメリカ西海岸のレーベルと契約、海外フェスへの出演やイギリスのトップアーティスト「ピクシー・ロット」などと共演

著書「オックスフォード大学MBAが教える人生を変える勉強法」(大前研一氏推奨)など

カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)マネジメントサイエンス専攻 オックスフォード大学サイードビジネススクールMBA(経営管理学修士) ペンシルバニア大学大学院コンピューターサイエンス専攻

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