「やっぱりコンサルじゃなくて事業をやりたい」(現役東京大学大学院生)

医療事業をやりたい現役東京大学大学院生Yさん
現在、東京大学の大学院に在籍するYさんは、新卒でどの業界、会社に入社するかを迷っています。
AIや医療に興味があるYさんは、現在コンサルティングファームに興味を持っていますが、事業会社にも興味があり、進路を迷っています。
そんなYさんの相談にEnabler Japanの西垣と西本が相談に乗りました。
【Yさん】:こんにちは。私は、現在東京大学の大学院でAIと医療について研究を行っています。
今ちょうど修士1年ということで、インターンも含めて就職を意識し始め、将来はAIや医療に携わりたいと持っているのですが、バリバリのエンジニアというよりはビジネスや事業に関わりたいと思います。
現在はコンサルティング業界を中心に検討していて、AI、IoT、バイオセンサーなど先端技術を組み合わせたAIホスピタルのような構想がある中で、総合的にプロジェクトに関わりたいと思っているので、経営側の仕事をするのがいいと思い、コンサルティング業界を志望しています。
【西垣】:なるほど、コンサルティングの仕事は確かに経営視点を持ちながら仕事をすることが求められますし、先端技術をもとに事業を創るようなプロジェクトの引き合いも多数あります。
一方で、コンサルティングは基本的には「プロジェクトベース」で仕事をしますので、事業に深く関わるものもあれば、上流の戦略の部分だけやって事業運営にはタッチしないプロジェクトもあります。
事業に関わるプロジェクトにおいても、業務改善や売上向上といった既存ビジネスの改善のようなプロジェクトが多いです。
具体的には、大手コンサルティング会社のヘルスケアのクライアントは、グローバルファーマや大手医療機器の会社が多く、そのような顧客に対して営業戦略を考えたり業務改善を行うといったテーマが多いです。
なので、そのようなことをイメージされているのであればフィットはあるかと思いますが、ご自身で事業を創り出して運営したいということであれば少し違う気もします。
コンサルティングと事業会社の大きな違いとしては、自身で事業をやるのか、事業のサポートするか、ということだと思いますが、そういった点を踏まえてご自身としてはどうですかね?
【Yさん】:私としては自分で事業をやりたいと思っていますが、自身でやるのとサポートするのとではそんなに違うんですかね?
【西垣】:違いますね。典型的な例を挙げるとすると、コンサルティングで2、3か月のプロジェクトで戦略を作って、後は実行に関してはクライアントサイド、つまり事業会社でやることになるので両社でやってることは違ってきますね。もちろん実行支援などのプロジェクトにおいては被る部分もありますが、実行支援においても、戦略を「実現」するところまで一貫してやることは稀です。また、実行の際にも単なる業務支援ではなくコンサルタントとして第三者でいることが求められるケースも多いです。
【Yさん】:そうすると、やはりコンサルティングではなく、自分で事業をやりたいと思います。
【西垣】:ただ、コンサルティング会社では、AIをヘルスケアビジネスにどう生かすか考えたりそういったテーマのプロジェクトはたくさんあると思うので、戦略やコンセプトを考えるのが好きなのであればコンサルでもできますし、フィットするかもしれませんよ。
【西本】:結局はご自身で何がやりたいかなのですが、私は以前リサーチ会社で働いていたときに、会社を辞めていく人の理由で多かったのは、施策を提言するだけで自社では何もやらない、ある意味机上の空論を言っているに過ぎないととらえられることもあるということです。
自社の提言がどこまで顧客に実行されているのか、顧客にどういったインパクトがあったのかわからない場合もある。なので、アドバイザーサイドからは事業は見えない部分もある。
ご自身で事業をやりたいのであれば、やはり事業会社かなと思います。
それも、ご自身で事業を立ち上げたいとなれば、大手ではなくある程度小規模の会社が良いかと思います。
大手企業では分業化によって最適化されていて、効率は良いのですが、それぞれの歯車がたとえ抜けたとしてもわからない、気づかれない。
逆に言えば、自分が小さい歯車であるうちは全体感すらもつかみずらい、というのが大企業の悪い点かもしれません。
もちろん、大企業の良い点としては、優秀な人はいますし、学びにもなります。
ただ、ご自身で事業をしたい、事業全体に携わりたい、というのであれば規模の小さいスタートアップなどのほうが事業全体に携われる機会は多いと思います。
【Yさん】:ありがとうございます。参考になります。やはり、自分で事業をやりたいので、コンサルよりも自分は事業会社のほうが良い気がします。
ただせっかくなのでコンサル業界についてわからない部分もあるのでコンサル業界についてもお話をお伺いしたいと思います。
コンサル業界は非常に激務という噂をよく聞くのですが、その理由はなぜなのでしょうか。調査をしてレポートを書くだけならあまり時間はかからないと思うのですが。
【西垣】:プロジェクトにもよりますが、一般的には、時間が限られている中でリサーチ、分析を行って、実際に意思決定者を説得するところまでやらないといけないので激務になりがちです。
報告会でレポートをプレゼンして終わり、というようなイメージがあるかと思いますが、それだけではなく、意思決定者を説得するには、例えば、社長を説得するには役員のキーマン、事業の責任者などを事前に説得する必要がありますよね。そのさらに前にはカウンターパートの部課長としっかり握る必要がありますよね。
しかも人によって話し方を変えたり、メッセージやレポートをある程度テーラーメイドする必要も場合によってはあります。
なので、レポートを提出して終わり、ということではけっしてなく、いろんな人と議論をしながら仮説を磨き上げて人を説得していくということをやらなければいけない。
リサーチや分析などは意思決定の材料にすぎないものの、これにももちろんすごく時間はかかりますし、それになにより人を動かすのが大変で、例えば2か月のプロジェクトで最後に最終報告会があるというような場合でも、その間に超えなければいけないハードルがいくつもある、というようなイメージです。
【Yさん】:そこで疑問なのですが、なぜ事業会社は会社の中にコンサルティングのような部署を作らないでコンサルティング会社を雇っているんですかね。
【西垣】:コンサルティングのような戦略策定や社内調整をやるような部署ということですかね。コンサルを使う理由としては、第三者の視点で意見を聞きたいということがあります。
社内でそういった機能を作ったとしても、社内政治やパワーバランスで意見に偏りが出ますので、第三者のいろんなマーケット、会社を知っている人の中立的な意見が欲しいという場面があります。
だいたい社内では結論が決まっていて、本当にこれでいいのか第三者の視点で検証してほしいといった引き合いもあったりします。
【西本】:以前、マッキンゼーのコンサルタントの方と話していた時に、彼が言っていたのが、「コンサルタントの仕事はクライアントの背中をそっと押すこと」と言っていました。
クライアント社内ではだいたい答えがわかっている、ただ本当に正しいのかまではわからない。何万人も社員を抱えて彼らの生活を預かっているような大企業では、できるだけ意思決定を精緻に行いたいというのがあるんです。それを最高に優秀な集団に手伝ってもらう。 それで、自身の判断が間違ってなかったことを確かめた上で実行していくということだと思います。
なので、意思決定のサポートはコンサルでできるが、最終意思決定者になりたいのであれば事業会社でしかできない。
【西垣】:それがコンサルの楽しさでもあり、ジレンマでもあると思います。
楽しいのは、いろんな会社の中身を見て意思決定の場を目撃することができるということです。事業会社では他業界や他の会社は見れないので、いろんな業界、会社の調査、分析が好きな知的好奇心が旺盛な方には楽しめると思います。
逆にジレンマとしては、ひとつのプロジェクト、事業にコミットできないというところで、どうしても中途半端で終わってしまうことが多い。
コンサルティングファームで働いている人は自身で事業をやりたくなって起業したり、事業会社に転職していく人も多いです。
【Yさん】:コンサルティングファーム出身の起業家とか多いイメージがあります。
【西垣】:最近は起業するコンサルタントも多いようですが、起業したいのでコンサルファームに入るのは逆に遠回りになってしまうとも思います。
起業と経営は別のもので、シンプルに言うと、0から1を生み出すのが起業で、1から10にするのが経営です。
なので、経営を学んで起業をしたいというのはずれているんですね。
さらに言うと、コンサルティングファームで働くと、「経営コンサルティング」はできるようになりますが、「経営」は必ずしもできるようになりません。
ただ、コンサルティングファームで働く人はみんな頭もよくて行動力もあってたくさん働くので起業して成功する人もいますね。