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  • 執筆者の写真Joe

アメリカの大学に留学するデメリット ~ 勉強が大変で卒業に苦労する

更新日:2020年8月11日

“アメリカの大学は卒業するのが難しい”というのが定説のようになっているが、実際のところはどうなのだろうか。  確かに、以下のIES (Institute of Education Science)のデータを見てみると、2006年に入学し、6年間で4年制大学を卒業したのは全体でわずか59%であるので、6年間で約6割の人しか卒業できていない事になる。



OECDが発表したレポート「Education at a Glance 2013」によると、2011年の日本の大学型高等教育の修了者の割合(Completion rates in tertiary education)は91% (アメリカは64%)であり、日本と比べると、アメリカの卒業率はかなり低い。

アメリカの大学の卒業率の低さは何が原因なんだろうか。 

やはり勉強が難しく、ドロップアウトする人が多いからなのだろうか。 

以下のデータを見てみると、合格率の低い大学のほうが卒業率が高くなっていることが分かる。  しかしながら、 このデータだけを見ても、卒業できない/できる原因はまだ判断できない。 



実際にドロップアウトしている人はどんな人達なのかを見てみよう。  Public Agendaという非営利団体が2009年に発表したレポートで、22~30歳で何らかの高等教育を受けた事のある人600人以上にインタビューを行った「With Their Whole Lives Ahead of Them」の中で卒業出来なかった理由についてのインタビューがある。 




大学を卒業できなかった理由として、”I needed to go to work and make money(お金を稼ぐために働かなくてはならなかった)”(71%), “I just couldn’t afford the tuition and fees(学費を払う余裕が無かった)”(52%)等、金銭的な理由を挙げている人が多い。 

一方、”Some of the classes were too difficult(授業が難しすぎたから)”と応えたのは34%である。 

大学を卒業出来なかった人は卒業した人に比べて親・親戚からの援助、奨学金・Financial Aid、ローン等の金銭的援助を受けなかった割合が多い事が分かる。 

これらを踏まえると、勉強が難しくて大学を卒業出来ないというより、大学を卒業できない原因は金銭的理由によるケースが多いと考えるのが自然である。

ドロップアウトの理由としては金銭的な理由を挙げる人が多い一方で、ドロップアウトする人達の教育に対する考え方にも原因がありそうである。 

Public Agendaの「With Their Whole Lives Ahead of Them」は卒業出来なかった人と卒業出来た人それぞれに学校を選んだ理由を聞いている。 

卒業出来なかった人が学校を選んだ主な理由は、 It was conveniently located to where I lived or worked (住んでいる所、或いは職場から近い)” - (66%)”, ”It had a class schedule that worked with my schedule (自分のスケジュールに合ったクラスを提供しているから” - (59%)といった教育内容に関係の無い理由が上位になっているのに対し、 “The overall academic reputation of the school (学校の学術的な評判)”を選んだのは33%であった。


一方で、卒業出来た人が大学を選ぶ理由として挙げたのは、”I thought going to this school would help me get a good job soon after I graduated (学校に行くことが卒業後すぐに良い仕事に就く手助けになると考えた)”(57%)が1番多く、また、卒業出来なかった人とは対照的に”The overall academic reputation of the school (学校の学術的な評判)”を選んだ人は54%と多い。 

また、It was conveniently located to where I lived or worked (住んでいる所、或いは職場から近い)”(45%)”, ”It had a class schedule that worked with my schedule (自分のスケジュールに合ったクラスを提供しているから”(36%)といった理由は卒業出来なかった人に比べて低い結果となっている。 

授業の難易度よりもむしろ、金銭的な理由でドロップアウトする人が多く、それに加えてドロップアウトする人はそもそも教育に関心の少ない人であるという事が分かり、低い卒業率もそういった要因が大きく影響している可能性がある。

アメリカの卒業率が低い背景には以上のような事があると分かった一方で、日本の大学の卒業率が高いのはなぜなのだろうか。

日本の大学は卒業するのが簡単だからなのだろうか。 

下記のグラフを見ると、1週間の勉強量が0時間、1~5時間と応えた日本の学生はアメリカに比べると圧倒的に多い一方で、11時間以上と応えている学生は日本の方が少ない。 

このグラフを見ると、アメリカの学生に比べ、日本の学生は勉強時間が少ないということになる。 



これらのグラフだけ見ると、日本の大学は勉強時間が少なくても卒業できるという事になるが、実際のところはどうなのだろうか。 

文部科学省の大学分科会・大学教育部会合同会議配付資料の中で、なぜ日本の大学生は欧米の大学生に比べて勉強しないのか、その理由を記載した資料があるのでいくつかピックアップしてみた。

日本の教育システムの問題 ・高校での受験勉強(暗記型)で疲弊した後、自ら勉強する習慣が見につかないまま、また大学進学の目的も不明瞭なまま大学に進学した人が多い。 勉強する目的が不明瞭なので、勉強時間が少なくなる。

アメリカと日本の大学のシステムの違い ・日本の大学ではシラバスの作成と公表が義務化されているが、日本の大学のシラバスは、学生が予習・復習できるような工程表の要件を欠いている。 →一方、アメリカの大学のシラバスではどのような課題の提出を求められるか、教科書の何ページをどの日にカバーするか等まで詳細に記載されているものが多い

・日本の大学教育は一度の大学入試を経て合格すると進学した大学で4年間を過ごし、卒業するが、アメリカの大学では多様な大学間で学生の移動が可能である。 →アメリカでは編入を繰り返してレベルの高い大学に進学していくのが一般的な為、重要な編入基準であるGPAを高くキープするために勉強をする。 

・日本の大学で行われている大規模授業では学生が授業に出席する頻度は高くない。また、成績評価が学期末の筆記テストのみで行われることが多い。米国でも大規模授業はあるが、その場合には大教室での授業は専任の教員(多くはベテラン教員)が担当し、大人数の学生を少数グループに分けてディスカッション・セクッション制をとっている。 →アメリカの大学では大規模授業ではレクチャーとディスカッションの2段構えとなっており、授業の準備もレクチャー用、ディスカッション用の準備を行う必要がある。


日本の大学とアメリカの大学の教員の質の違い ・日本の大学の教員の多くは授業の進め方やクラスマネジメントに関する訓練を受けていないので、学生の積極的参加を促すような授業を創りだすことができない。 米国の大学の新任教員は、teaching clinic等で授業の進め方やクラスマネジメントに関する訓練を受ける。 →トレーニングを受けたプロフェッショナルが指導を行う事で学習意欲が高まる。 また、アメリカでは学生が教授を評価するSNS等が普及しており、学生はより評価の高い(より魅力的な)教授の授業を好んで受講する。

経済状況 ・親からの仕送りが減ることで、親元を離れて大学生活を送る日本の学生は生活費の不足分をアルバイトに頼らざるを得なくなり、明確な大学生活の目的や勉強の動機を持たない場合には、アルバイトが学生生活の中心になり、勉強に費やす時間がなくなることもまれではない。 →アルバイトの時間が相対的に多くなり、学習時間が減少する。

・米国では大学生の学資を親が仕送りするという習慣はあまりない。米国の大学生の多くは奨学金や連邦政府貸与ローンで学費を賄っており、将来返還の義務がある。従って、大学に来ても勉強しないということは「借金をしながら返済のことを考えずに遊んでいる」ということであり、彼らにとって考えられない事態である。 →返済義務のある奨学金やローン等のリスクを取ってまで大学に通う意欲のある学生は勉強に対して意欲的であり学習量が多くなる。



高校時の暗記型の教育に慣れてしまい、自ら勉強する姿勢が身に付かないといった日本特有のものから経済状況の悪化で働かざるを得ないといった各国共通の要因があるが、アメリカと日本の大学の違いで、顕著なのはやはりGPA制度ではないだろうか。  アメリカではGPAが大学入学・編入の際に重要な条件となり、また就職時にも影響を与える事からGPAを高くキープする為に日本の学生よりも長く学習する。 

ベネッセ教育総合研究所の「大学生の学習・生活実態調査報告書」の中で、国内大学生の成績についての調査がある。

これを見てみると、国内大学生のGPAの全体平均は2.7であり、またGPAが一番多く分布しているのが2.1-2.5のレンジの間である。 



一方、アメリカの大学はというと、”GradeInflation.com”というウェブサイトによれば、2006-2007年の平均GPA(230校の平均)は3.11である(公立:3.01、私立:3.30)。(次頁参照)   ちなみにGPAの平均値は1991-1992年の2.93から上昇傾向である。 




GPAの平均値は日本の大学よりもアメリカの大学のほうが高い事が分かり、アメリカ国内での大学成績の重要性が勉強量に影響を与えている可能性がある。 

アメリカの大学では、2.0以下のGPAを2学期連続して取ると退学となってしまうが、国内の学生は2.1-2.5のレンジに多数の学生が分布しており、仮にこれがアメリカの大学であれば落第ギリギリで成績をキープしている学生が多いという事になる。 

つまり、GPAの平均値で見ると、勉強量の少ない日本では成績の良くない学生が多く、勉強量の多いアメリカでは成績の良い学生が多いという事がいえる。 

これはどういうことかというと、”アメリカの大学はたくさん勉強をしなければ卒業できない”ということではなく、”良い成績じゃなくてもいいなら日本の大学生並みに勉強しなくても卒業できるのではないか”という事である。  筆者の経験から言っても、やはり良い成績で卒業したいと考えるアメリカの学生が大半で、それらの学生が成績を引き上げているように感じる。 一方でほとんど勉強しない学生は卒業出来ないかというとそうではなく、テストを受けて、課題を提出していれば概ねパスできているという印象である。 

また、アメリカの大学では、成績が芳しくない学生向けに補講を行ったり、課題を与え、サービス点(extra points)を付与するといった事も珍しくないので、そういった救済措置を上手く活用する事でも落第を防げる。 

一方で落第するのはどういった学生かというと、テストもまともに受けず、課題も提出せず、救済措置すらも袖にするような学生が多いと感じる。

ちなみに、少数ではあるが、中には”C”の成績を取りそうになった学生で、GPAを高くキープしたいがためにわざと”D”を取得し(D, Fは再度クラスを受講しなければいけない)、クラスを再受講して”A”を取得するといった学生もいる。

他にも日本の学生が勉強しない要因としてよく挙げられる事で、授業に出席しなくても、”テスト直前で過去問をやれば点数が取れる”とか”課題は友達のものを写せば通る”といったようなものもあるが、こういった事をする学生はアメリカにもたくさんいるので決定的な要因という事はできないだろう。 


とりわけ、筆者の経験から言うと、中国人留学生や韓国人留学生は母数が多く、縦横のネットワークが強いので、過去問や課題の回答・サンプルをたくさん持っている。 楽をしたい人はこういったネットワークを持つ中国人や韓国人と仲良くして過去問等を入手するのがいいかもしれない。 他にも規模の大きな大学になると、大学外に有料でテスト対策を行うチューターがあったりするので、そこで過去問を入手することも可能である。 

また、アメリカでは、学生が教授を評価するレビューサイト等が普及しており、例えば、”ratemyprofessors.com”というサイトでは、教授×授業別の”授業の有益さ”、 ”分かり易さ”、”難易度”等の学生による評価が記載されており、口コミも多く掲載されている。 こういったサイトを参考にして、難易度が低く、課題が無い/少ない授業を中心に受講すると良い。 


サマリー

アメリカの大学は卒業するのが難しいのだろうか? 

これまでのデータを踏まえて考えると、必ずしもそうとは言えないようである。

先ず、アメリカの大学の卒業率は日本に比べると低いが、これにはアメリカの大学では別の大学に編入をする事や休学して働いて学費を賄うといった事がごく一般的であるという要因があると考えられる。 

またドロップアウトしている人を見てみると金銭的な理由から学校を中退した人が多い一方、授業が難しいので中退したという人は少ない。 

更に、ドロップアウトしている人は教育に対してあまり関心の無さそうな人達が多い事が分かった。 

ただし、アメリカの大学生の勉強量は日本の大学生に比べて多いのは事実である。 しかしこれはアメリカの大学での勉強が難しいというより、アメリカでは大学成績(GPA)が編入・就職の際に重要であることから、GPAを高く保つ為に勉強量が多くなっていると考えられる。 

つまり、GPAが低くなっても良いという事であれば、勉強量は少なくて済む。 

以上の事から、成績に拘らなければアメリカの大学を卒業する事自体はそれほど難しくないという事がいえる。 

次回は、アメリカ大学を卒業してから、国内での就職には不利なのではないか?という疑問にお答えしていきたいと思う。



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