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  • 執筆者の写真Joe

東大の「世界大学ランキング」が低迷する致命的な理由

更新日:2020年5月2日

2018年2018年9月26日、イギリスの高等教育専門誌『THE(Times Higher Education)』が、2019年の「THE世界大学ランキング」を発表しました。日本の大学では、東京大学が42位、京都大学が65位と、2校がトップ100に入ったものの、国内最高学府と言われる両者でさえ、この順位に留まっています。世界に目を向けると、上には上がいるということですね。


毎年発表されるたびに話題になる、このランキング。いったいどのような基準でランク付けされ、どのような大学が上位にいるのでしょうか。カリフォルニア大学サンディエゴ校とオックスフォード大学大学院を卒業し、海外大学や留学情報にも精通している西垣和紀(にしがき・かずき)氏に、最新の世界大学ランキング事情について聞きました。



 

「世界大学ランキング」の評価基準はとても細かい!

 

もともとTHEは、イギリスの大学評価機関「クアクアレリ・シモンズ社(Quacquarelli Symonds:QS)」と共同で、2004年から2009年までの間、ランキングを発表していました。しかし、THEとQSは分離。2010年以降は、それぞれ別のランキングを毎年発表しています。世界大学ランキングは、ほかにもさまざまな機関から発表されていますが、THEとQSの2つは、最も有名なランキングとなっています


さて、今回取り上げるTHEは、総合的な大学ランキングのほか、学術分野別や地域別などのランキングも発表しています。総合ランキングの評価基準は以下の通り。各項目の%は、評価の際の全体に占める割合を意味しています。


教育力(学習環境) 30% └評判調査 15% └教員数と学生数の比率 4.5% └博士号取得者数と学部卒業生数の比率 2.25% └博士号取得者数と教員数の比率 6% └大学全体の予算 2.25%


研究力(論文数、収入、評判) 30% └評判調査 18% └研究費収入 6% └研究の生産性 6%


引用数(研究の影響力) 30%


国際性(教職員、学生、研究) 7.5% └海外留学生数と国内学生数の比率 2.5% └外国籍教職員数と国内教職員数の比率 2.5% └国際共同研究 2.5%


産業界からの収入(知識移転) 2.5%




 

国内大学は東京大学の42位が最高

 

日本の大学では、東京大学が42位、京都大学が65位と、2校がトップ100に入っているほか、大阪大学、東北大学、東京工業大学が251~300位の間に位置しています。全体で1,250校をランク付けしており、日本の大学は103校がランクイン。ランクイン数で見ると、じつはアメリカに次ぐ2位につけています


とはいえ、日本の大学のランキングは近年低迷していると、各所で指摘されています。実際に、下図を見てわかる通り、昔に比べると下がっています。



(参考:Times Higher Education)



例えば、THEのランキングページで閲覧できる最も古い2011年のランキングを見ると、東京大学は26位、京都大学は57位、続いて東京工業大学が112位、大阪大学が130位、東北大学が132位でした。東大の最高位は2014年と2015年の23位で、京大は2012年と2014年の52位です。


ランキングの推移を見ると、2015年~2016年の間で日本の大学のランキングがぐっと下がっているのがわかります。詳しくはここでは書きませんが、これは、ランキングの算出に使用するデータベースやデータの処理方法の変更が起因していると言われています。




 

ランキング上位は長年アメリカとイギリスが独占

 

では、ランキング上位にはどのような大学が入っているのでしょうか? 下図は2011年と2019年のランキングです。細かな変動はありますが、ほぼアメリカとイギリスの大学が独占していることが見て取れます。



(参考:Times Higher Education)


2011年はアメリカの大学がトップ5を占めていましたが、近年はイギリスのオックスフォードとケンブリッジが上位に躍り出ています。特に1位のオックスフォードは、2011年は6位だったのが、現在は3年連続で1位を獲得中。逆に、2011年に1位だったハーバードが最新ランキングでは6位に順位を下げており、2011年から2019年の間にハーバードとオックスフォードが逆転する形となりました。




 

ランキングが急上昇しているアジア勢

 

2019年度版のランキングでは、中国の清華大学(22位)が総合ランキングでアジア1位となっています。その他、シンガポール国立大学(23位)、北京大学(31位)、香港大学(36位)と続きます


清華大学は、2011年は58位だったものの、2019年には22位に浮上しています。また、シンガポール国立大学は34位から23位、北京大学は37位から31位に順位を上げてきています。逆に香港大学は21位から36位に下がっているものの、シンガポールの南洋理工大学が174位から51位に、韓国のソウル大学が109位から63位に上がっています。


これらの大学がランキングを上げている理由は、研究力の向上にあるようです。特に、清華大学や南洋理工大学などは、論文の引用数も大きく上昇しています。


中国は国家として、科学技術政策に注力・投資してきました。清華大学は特に理工系の研究に重点を置き、産学連携を積極的に行なっています。大学の周りにはスタートアップエコシステムも発達しています。また、シンガポールの大学は、政府が科学技術や研究開発に多額の投資をしたり、海外からの優秀な留学生をリクルートしたりしています。シンガポールは豊かな国際性でも有名ですよね。こういった施策が功を奏して、中国とシンガポールはランキングを上げてきているようです(※中国の大学は、統合によってランキングを上げてきたとも言われていますが)。


また、アジアだけでなく、ヨーロッパの大学もランキングを上げています。例えば、ドイツのルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンは2011年には61位でしたが、最新版では32位に上がっています。ハイデルベルク大学も83位から47位に、ミュンヘン工科大学は101位から44位になっています。ほかにも、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学は119位から48位に、オランダのライデン大学は124位から68位に上昇。イギリスのロンドン・スクール・オブ・エコノミクスやキングス・カレッジ・ロンドンなども2011年当初から大きくランキングを上げました。


これらの大学のランキング上昇の要因はそれぞれ異なっているため、一概に言うことはできません。例えば、ハイデルベルク大学やルーヴェン・カトリック大学、ライデン大学は論文の引用数がランキングの上昇要因になっていますが、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンは全般的な評価、及び産業界からの収入、国際性で大きく評価されており、ミュンヘン工科大学は研究力が主な要因のようです。




 

なぜ日本の大学はランキングが低いのか?

 

近隣のアジア諸国の大学が順位を上げてきている一方で、なぜ日本の大学はランキングを下げてしまっているのでしょうか。ひとつの理由として、英語で研究できる環境にない」「外国人留学生や外国人研究者の数が少ないといった問題が指摘されています。


たしかに「国際性」の評価は低く、2019年のトップ30の大学の平均が76点であるのに対し、東大は35.9点京大は31点しかありません。しかしながら、国際性の比重は全体の評価の7.5%に過ぎません。ほかにも理由があるはずです。