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日本企業に蔓延するPoC病 ~PoC(概念実証)を経て実際に事業化するには~

最終更新: 7月25日


企業で新規事業を推進するにあたって、PoCという言葉を耳にすることが多くなっています。


PoCとは、「Proof of Concept」の略であり、日本語では「概念実証」と訳されますが、「実証実験」と呼ばれることが多いです。

事業の企画(コンセプト)が実際に実現できるかどうかを実証(プルーフ)することを意味し、PoC(概念実証)が完了したら次のフェーズにおいて事業化するという流れです。


ところが、多くの企業において、PoCを実施したはいいものの、事業化せずにプロジェクトが終了してしまうといったケースが多くあり、そのようなPoCを次々と実施し、実施しただけで満足してしまう、所謂「PoC病」や、度重なる「PoC→事業化せずに終了」が繰り返されることによって社内の担当者が疲弊していく「PoC疲れ」が日本企業に蔓延しています。


私は、これまでに、コンサルタントとして大企業の新規事業創出をサポートし、事業化の成功例や事業化を阻むさまざまな要因を見てきました。

また、ヨーロッパ最大のアクセラレーションプログラムである「スタートアップブートキャンプ」の国内の運営責任者、COOとして、世界中のスタートアップと国内大企業とのPoC実施、事業化支援をしてきました。

さらに、私自身もテックスタートアップなどで、或いは自分自身で複数の事業を立ち上げてきました。



このような経験からPoCを成功させ、事業化させるためのアドバイスを少しここに書きたいと思います。

「PoCをやって終了」で終わらないために PoC≒事業化としてとらえ、目標値を明確に定める

そもそも、PoCでどこまでやるか、PoCの定義が定まっていないままにPoCを実施して終了するケースが多いです。

ゴールは何か、KPI、スコープ、予算、期間、ステークホルダー、パートナー候補、対象顧客、顧客への提供価値、チャネル、事業化の判断軸…こういったものを定義せずに実施した結果、事業化する判断ができずにプロジェクトが立ち消えることになります。


PoCを実際にやってみて、結果をレビューして、結果が出なかったら、「まだまだですね、ここをこう改善していきましょう」というように次のステップにつながればまだ良いのですが、PoCの結果がでて、「将来的には可能性があるかもしれませんが今はやめておきましょう」みたいな形で終わることがよくあります。


PoCというとどのようなものをイメージしていますでしょうか。プロトタイプを作ってみる、データを集めて分析する、社内ユーザーに使ってもらう、或いは社外の限られたユーザーに無償、或いは原価が賄えるくらいの低コストで使ってもらってフィードバックを集める…といったことが一般的にやるPoCではないでしょうか。



私自身が事業立ち上げにおいてPoCをやるときは、実際にサービスを立ち上げて顧客にプロダクト・サービスを売ってマネタイズまでやります。ほぼプロダクトローンチと変わらないです。



B2Cビジネスであれば、プロダクトを作り、LP(ランディングページ)を立ち上げ、少額予算でマーケティングをし、実際に顧客をつかまえてフィードバックを得る。 B2Bであっても同様で、顧客にアポを取り、プロダクトを説明し、有償で使ってもらい、フィードバックを得る。

そして、得たフィードバックをもとにプロダクト・サービスを改善し、また使ってもらう…といったことをリーンに回していきます。


ただし、3か月から半年くらいの期間を決めてやって、事業が成長する可能性があれば継続して資金を投下する、可能性が薄ければきっぱりやめる、ということをやります。

事業化の可能性を見極めるにあたり、「なんとなくいけそう」では頼りないので、なにかしらの基準、例えば、精度が○○%を超える、問い合わせが○○件を超える、成約数が○○件を超える、ROIが○○%を超える…といった基準を設けておくことが重要です。


ごく当たり前のことを言っているようですが、この当たり前ができていない企業が非常に多いのです。


リクルートや富士フィルムなど新規事業を次々と成功させている企業はしっかりとしたステージゲート式の新規事業を立ち上げるプロセスがあり、それぞれのゲートごとに事業化推進、或いは撤退の基準を定めて事業化を行っています。



ですが、目標を定めてレビューをする際に、しっかりとやりすぎてしまうのも問題だったりします。新規事業は最初から上手くいくほうが珍しいので、「割とうまくいった」くらいの達成度で次のステップに進み、フィードバック→改善の繰り返しによってブラッシュアップしていくものです。

社内のパワーバランスで事業化が阻まれる トップ自らが発信し、担当者には社内で顔の効くベテランと勢いのある若手を

新規事業の担当者、あるいはイノベーションの担当者は、往々にして社内で煙たがられます。

このようなイノベーション部署は少なくとも設立当初はコストセンターですから、既に収益化している既存事業をやっている人達からみたら、「俺たちが稼いだ金をこんなものにつぎこみやがって」といった形になります。


また、既存事業と外部の新しいものを組み合わせて事業創出をするパターンが一般的ですので、他の部署に「こんな技術を持った会社と組めそうなので既存事業と組み合わせて○○の事業をやりましょう」というような提案を他部署にたくさんして回るので、既存事業部からすれば、やることが増えるので、単純に「面倒くさい」と思われたり、「事業のことを詳しくわかっていないやつが何を言ってるんだ」というような感じになったりします。


事業部によっては、縄張り意識の強い鮎みたいな人達がいて、かたくなに新規事業を阻んだりします。

過去の成功体験から、現状を変えたくない、「今まで俺たちはこうやって成功してきたんだ」というような人達です。

事業化どころかPoCですらできない、企画ですら聞いてもらえない、といったケースも往々にしてあります。

これはけっこう根深い問題で、単純に部門間の縦割りという話と、新規事業の推進が評価に結びつかない日本企業の社内評価システムなどいろいろな原因があります。

上手くいっているケースは、新規事業やイノベーション創出などの取り組みをトップがサポートし、明確に「○○の分野に注力していく」というようなことを発信しているケースです。これによって社内の意識が新規事業・イノベーションに傾きます。


担当者のアサインメントも重要で、新規事業やイノベーションの取り組みをやるようなときは、社内で顔の効くベテランが責任者で、勢いのある若手をメンバーとして入れるというのが鉄板です。


事業部やR&D部署などに協力してくれと頼みにいくとき、企画を説明しにいくときに、「ベテラン社員の○○さんの頼みじゃ断れないな」というふうになるので頭ごなしに断られることはないですし、実際にプロジェクトをやるときに、将来有望な勢いのある若手社員に「どうしてもやりたいんです!お願いします!」と熱意を持って頼まれれば安易に断れないものです。


あとは、コア事業以外の事業部と一緒にPoC~事業化をして社内で認めてもらい、その後にコア事業部を巻き込んでいくというようなやり方をするケースが多いです。


社内の「起業家」に事業を主導させる

新規事業を立ち上げることのできる社内起業家を育成しよう、とかそういう話ではなく、シンプルに「起業家を雇う」、或いは「社員を起業家にする」のです。


起業家を雇うというのは変に聞こえますが、これは企業、或いはグループ会社のリソースを使って事業を立ち上げる人材を雇うということです。


企業で外部の起業家人材を雇うことになるのですが、入社する前に立ち上げる事業プランを考えてきてもらって、どのくらいの時間軸でどこまで事業を成長させて、予算がどれくらい必要で、会社のリソースがどれくらい必要で…といったことを入社前にすり合わせて雇用するのです。入社直後には予算がついて、その予算内で事業を立ち上げるというわけです。

そして、3年くらいで成果がでなければ別の事業をやってもらう、或いは会社から去ってもらうというような形です。


私がオックスフォード大学のMBAの学生時代にインターンでお世話になったREAPRAグループではこのようなやり方で事業を立ち上げまくっていました。

会社の社員というより、プラットフォームがあって起業家がそこに在籍しているというようなイメージです。



社員を起業家にするというのも上記に似ていて、事業プランを考えさせて、予算を与えて、1人、ないしは数人で事業をやらせる。もちろんいつまでに結果ができなければ撤退という期限つきで。

ポイントとしては、専任でやらせるということです。 新規事業やイノベーション関連の取り組みは、現業と兼任でやっている会社が多いですが、兼任では、他の業務が忙しくなったときに忙殺され、動きが遅くなったり判断が鈍ったりしますので、特に動きの早い業界、ビジネスではうまくいきません。


いずれの場合も、企業が起業家に出資をしているのと似ています。



雇われているのに「起業家」なのです。

起業家というのは、自ら事業を興す人のことで、バージニア大学ダーデン経営大学院のSarasvathy教授に言わせれば、「Effectual(エフェクチュアル)」に行動する人です。


これはどういうことかというと、例えば、自身の既に持っているリソース(知識、スキル、経験、人脈…)をつかって事業を始める、行動していく中で仲間をどんどん増やして事業を拡大する、偶然性をも利用して事業を成長させる…とこのようなことができる人です。


対して、コーポレートの事業担当者は典型的にはMBA的な人で、経営戦略、財務知識、市場調査…といったことを駆使して事業を回します。これは成熟した市場で既存事業を行う場合には良いのですが、新しく世に存在しないサービス、事業を立ち上げるにはあまり役に立たなかったりします。


ですので、大企業に所属していたとしても起業家として、エフェクチュアルに立ち回り、事業を興すことのできる人の存在が新規事業の明暗を大きく左右します。

筆者




西垣和紀

高校中退後、数年間仕事を転々とした後、渡米。アメリカの大学を卒業後、外資系コンサルティングファームに入社し、大企業の戦略策定、M&A、業務改善、新規事業創出などに従事

その後、オックスフォード大学MBAを経て、ロンドンのスタートアップで事業責任者、外資系企業のCOO(最高執行責任者)などを歴任し、現在はヨーロッパと日本を行き来しながら様々なビジネスの立ち上げや企業のアドバイザーとして活躍

また、音楽活動をしており、アメリカ西海岸のレーベルと契約、海外フェスへの出演やイギリスのトップアーティスト「ピクシー・ロット」などと共演

著書「オックスフォード大学MBAが教える人生を変える勉強法」など

カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)マネジメントサイエンス専攻 オックスフォード大学サイードビジネススクールMBA(経営管理学修士) ペンシルバニア大学大学院コンピューターサイエンス専攻

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