コロナウイルス感染が蔓延することでどのように人々の行動が大きく変わり、消費にも大きな変化が表れています。このような状況下で企業はどのようなメッセージを発信しているのでしょうか。
世界の消費の変化
食品、生活必需品、ホームエンターテイメントなどのウェブサイト訪問、オンライン購入が増加、生活必需品以外のファッションなどは減少するも、一部地域でウェブ上のウインドウショッピングが増加
まずは、各業界でどのような変化が起こっているのかをみていきましょう。
下図は2020年1月から2月の間にどの程度リテール販売に変化があったかを表した図です。
世界のリテール売上の変化(2020年1月~2月)
出所:Yieldify「Coronavirus and Online Retail: 5 Best Practices Marketers Can Use Right Now」
これを見ると、1月から2月の間に世界のリテール売上はほぼ全業界で軒並み減少しています。オンラインリテールは上昇、スポーツ用品、楽器、本なども自宅待機生活に備えて上昇、食品や日用品など生活必需品は変化が小さく、衣服、アクセサリー、電化製品、ガソリンなどの売上は大きく減少しました。
それでは、オンラインリテールにはどのような影響があったのでしょうか。下図は、カテゴリー別のオンライントラフィックです。
世界のオンライントラフィックへの影響(2020年3月22日週時点)
出所:Statista「Coronavirus impact on online traffic of selected industries worldwide in week ending March 22, 2020」
オンラインでは、生活必需品の購入のためにオンラインスーパーマーケットが拡大、在宅機会が増えたことによる映画・動画などのメディア需要、リモート会議などの増加によるテレコム・通信の需要増、Amazon、Alibaba、楽天などのマーケットプレイスへのオンライントラフィックが上昇しています。
逆に、ファッション、ジュエリー、旅行などのトラフィックは減少しています。
コロナウイルスによる消費の大きなトレンドとして言えるのは、オンラインでの食料・生活必需品、健康用品、ホームエンターテイメントの拡大です。
オンラインショッピングのトレンド(2020年3月2日~9日)
1. 食料・生活必需品
イタリアでは食品、ホームケア用品が47%増加
アメリカでは食品が26%増加
ドイツでは食品が34%増加
2. 健康用品
アメリカでは健康用品、日用品が13%増加
ドイツでは健康用品、パーソナルケア用品が19%増加
アメリカでは家電が14%増加、うち74%は空気清浄機
3. エンターテイメント
ドイツではビデオゲームが31%増加
玩具、ゲームがアメリカで10%、ドイツで36%、イタリアで30%それぞれ増加
出所:Sellics, WoW Growth % From 02.03.2020 to 09.03.2020
基本的には、世界的なトレンドとしては、食料・生活必需品、健康用品、ホームエンターテイメントなどはトラフィックが上昇、ファッションなど非生活必需品については減少となっているようですが、一部の国・地域では少し違ったトレンドがあります。
例えば、下記はフランスにおけるオンラインのトラフィック、購買状況です。
コロナ感染拡大後のフランスでのEコマースの状況(2020年3月13日時点)
出所:Statista
これを見ると、オンラインスーパー、オンライン薬局はトラフィックも購入も増加している一方で、オンラインファッションは、トラフィックは増加しているものの、購入は10%減少しています。人が屋内にいる時間が増えているのでトラフィックは増えたとしても、先行きが不透明で消費者は商品を購入しずらくなっているのでコンバージョンしないというネット上でのウインドウショッピングが増えています。
コロナウイルス禍での企業の反応
現在、物理的なイベントは全てキャンセル・延期となっているような状況であり、また消費が落ち込んでいる中で、企業はマーケティング予算の削減や予定していた広告の延期などを検討。短期的な利益よりも長期的なイメージ作り、ブランディングのためのメッセージ発信
このような大きな消費の変化を受けて世界のマーケターはどのような反応をしているのでしょうか。
マーケターの反応
71%のイギリスのマーケター、75%のアメリカのマーケターはEコマースの利用増加を見込んでいる(econsultancy & marketing)
55%のイギリスのマーケター、57%のアメリカのマーケターはプロダクト、サービスのローンチを遅延、或いは検討中(Yieldify)
3人に2人のマーケターは、マーケティング予算が少し減少する(45%)、或いは大きく減少する(20%)と答えている(marketing charts)
81%の大規模な広告主は予定していた広告を延期(World Federation of Advertisers (WFA))
このように、マーケティングに関する予算、施策に大きな影響があるのはもちろんのこと、マーケティング以外の戦略や投資などにも大きな影響が出ています。
施策や予算を予定通りに行う企業の割合(2020年3月16日、3月31日の比較)
出所:EConsultancy
上図を見ると、デジタルトランスフォーメーションなどの戦略施策、テクノロジーに対する投資、プロダクト・サービスのローンチなどを予定通りに実施する割合はおよそ半減しており、新規採用、マーケティングキャンペーン、マーケティング予算に関しては更に大幅に減少しています。
コロナウイルスのようなパンデミックの状況下で、コーズマーケティング(自社の商品・サービス社会課題の解決を結び付けて自社や商品・サービスのイメージアップを図る方法)のようなマーケティング手法は、消費者からみると企業がこの機会に乗じて利益を増やそうとしていると捉えられる可能性があり、あまり使えません。
ただし、企業は各社のウェブサイトやメディア等でコロナウイルス感染防止のためのソーシャルディスタンスや自宅待機などを連想させるメッセージを展開しています。
例えば、NIKEは、「Play inside, play for the world」というメッセージを打ち出し、カーシェアリングのUberは「Thank you for not riding with Uber」(Uberに乗らないでくれてありがとう)といったメッセージ動画を展開しています。
出所:各社ウェブサイト、ソーシャルメディア
ランニングシューズやスポーツ製品を販売するNIKEの「屋内で遊ぼう」というメッセージやUberの「Uberに乗らないでくれてありがとう」というメッセージは製品・サービスの利用者を増やすマーケティングとはまったく逆のメッセージを発信していますが、このようなメッセージを発信することで自社の利益よりも人々の健康や安全を重視しているというようなイメージを作り、長期的にはポジティブな効果をもたらすでしょう。
コロナウイルスと製品をダイレクトに結びつけてマーケティング、ブランディングを行っている企業は少なく、またあからさまにそのようなマーケティングを行うと逆効果になってしまう恐れがあります。ちなみに、AmazonやeBayなどのEコマースプラットフォームでは、転売商品はもちろんのこと、コロナウイルスに便乗した商品(コロナ、COVID-19といった単語を含む製品など)を積極的に削除しています。
コロナ禍、ポストコロナのトレンド
人々の衛生観念の向上によるタッチレス化、在宅ワークなどが広がることによるデジタルツールの導入増加、健康志向の高まりによるアクティビティトラッカーなどのIoTデバイスのニーズ増加、リモート診療の増加などを想定
タッチレスインターフェース
ファーストフード店や銀行窓口、オフィスなどタッチスクリーンが至る所に導入され始めましたが、この機にタッチレスのインターフェースに移り変わっていくかもしれません。身近なところでは、お店などでカードや現金の受け渡しがなくなっていき、コンタクトレス決済が普及していったり、あらゆる業界でジェスチャーコントロールやマシーンビジョンなどを通じて物理的なコンタクトが少なくなっていくでしょう。
デジタル化による人の移動の減少
昨今、デジタルツールによってリモートワークなどが可能となっていますが、企業に導入、定着するところに課題がありました。それが、コロナウイルスによってリモートワークをせざるを得なくなり、いざ導入してみるとミーティングなど滞りなく行えることが分かったため、デジタルツールを使い続け、リモートワークを継続して導入する企業も増えるでしょう。また、イベントなども感染防止の観点でキャンセルとなり、代わりにオンラインでイベントを実施する企業も増えています。これにより、人の移動は以前よりも減少します。
IoTデバイスの増化
自身の健康状態の管理、健康状態悪化の兆候を早期に発見するといったことの重要性が高まりました。例えば、Fitbitがスタンフォード大学と共同で同社のデバイスを用いてコロナウイルスの兆候の早期発見ができるかといった研究をしています。
リモート医療
コロナウイルスの感染防止のために外出を控える人が増加しましたが、病院は特に感染リスクの高い場所です。これによって病院に足を運ばなくても医師に診てもらえるリモート診療が増えていくでしょう。
オンラインでの消費
食品や日用品をオンラインで購入するのが増えています。Sellicsというマーケティングソリューションの会社によると、アメリカでは3月2日から3月9日の間に25%以上もオンラインでの食品の購入が増加しています。また、電化製品は14%、日用品は13%と増加しています。オンラインでのモノの購入は今後も続くでしょう。
社会のデジタル化は特に日本のような国では大きな課題でしたが、コロナウイルスの影響で大きくデジタル化が進展したと言えます。多くの企業では、リモートワークをやってみると案外業務に支障が無かったというところが多いのではないでしょうか。
コロナウイルスが収束した後も同様のトレンドが継続すると見られますので、この機に社内のルール整備やデジタルツールの刷新、働き方改革を進めるトランスフォーメーションを実行するチャンスとも言えます。
まとめ
・物理店舗での購買は減少、オンラインでの購買が増加
・ウェブ上で過ごす時間が増加するが、使うお金は少なくなる
・マーケティング、その他の施策は減少
・便乗商法ととらえられる可能性のある直接的なメッセージは避ける
・リーディングカンパニーは短期的な利益の追求は無視したメッセージを発信。自社の利益よりも人々の健康・安全を願うメッセージの発信により、イメージ嗚呼ぷ、長期的にサステイナブルに事業を運営
・世界的に本当のデジタル化社会が到来
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