最近、日本の優秀な高校生が、国内の大学ではなく海外の名門大学に進学するケースが増えています。渋谷教育学園幕張高校や同渋谷高校はハーバードやプリンストンなど海外の大学に毎年のように学生を送り出していますし、昨年は、東大合格者数トップの開成高校から海外大学への進学者数が20名を超えたというニュースも大きな話題となりました。
こういったニュースを見ていると、日本の優秀な高校生が、東大ではなく海外の名門大学を “当たり前のように” 目指すようになる日も近づいているのかもしれません。では、何が彼らを海外へと駆り立てているのでしょうか。日本の大学にはない “海外大学の魅力” とは、どんな部分にあるのでしょうか。
高校中退後に一念発起してカリフォルニア大学サンディエゴ校へ進学し、イギリスのオックスフォード大学大学院でMBA(経営管理学修士)を取得したのちロンドンの企業で戦略責任者として活躍する西垣和紀(にしがき・かずき)氏が、海外大学の魅力を語ります。
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私は現在、ロンドンの会社で戦略責任者として働いています。日本生まれ日本育ちの私がこうして海外で働くことができているのも、留学という選択をしたからにほかなりません。
私は日本の高校を中退して、数年間仕事を転々とし、荒んだ生活を送っていました。しかし、ふとしたことがきっかけで海外の大学に留学しようと思い立ち、中学生以下のレベルの英語力から勉強を開始して、アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校に入学。卒業後は数年間コンサルティングファームで働いたあと、イギリスのオックスフォード大学の大学院に入学しました。
卒業後はイギリスに留まり、現地の企業で世界各国の優秀な人たちに囲まれながら、日々切磋琢磨しています。このように、日本の大学ではなく海外の大学への進学を選んだことが私の人生を大きく変え、国際的なキャリアを築くきっかけになりました。ここでは、私のアメリカとイギリス両方に留学した経験から、日本の大学にはない海外の大学の魅力についてご紹介したいと思います。
学問を身につけるためのサポート
海外の大学では、学生が学問を身につけるための、学校による学習のサポートが充実しています。
例えば、イギリスの大学では「チュートリアル」と呼ばれる個別指導が学生に対して行なわれています。主に学部生が対象ですが、学生が毎週、学んだことについて論文を書き、チューターと呼ばれる教授と真剣な議論をするのです。
特にオックスフォード大学のチュートリアルの厳しさは有名で、オックスフォード大学の根幹をなす伝統的な教育システムと言われています。教授が学生の言うことに対して容赦なく批判し、学生はそれにしっかりとした答えを返さなければなりません。
チュートリアルはごく少人数で行われるため逃げ場もなく、学生は毎週打ちのめされることになるので、準備不足の学生にとっては毎週が恐怖の時間となります。前日は緊張して眠れなくなる学生がいるほどです。しかし、この厳しいチュートリアルのおかげで、いやでも学問が身につきます。
いわゆる大学で行われる通常の講義には出席しなくてもよい場合もあるのですが、チュートリアルには必ず出席しなければなりません。もしチュートリアルを明確な理由もなく欠席すると厳しく叱責され、最悪の場合、退学にもなります。
(チュートリアルのイメージ)
またアメリカの大学でも、通常の大人数での講義のほか、少人数の補講が各クラスごとに行なわれます。私の通ったカリフォルニア大学サンディエゴ校でも、クラスごとに補講が開かれていました。例えば、1時間半の講義があると、その翌日に2時間の補講が開かれるといった具合に。この補講では、単純にわからないことを質問したりするだけではなく、クラスメートどうしがディスカッションをして理解を深める場にもなっており、通常の講義よりも重要な場合もあります。
学校側としては、大きな教室で大人数を相手に講義をするほうが効率が良く、コストもかからないはず。しかし、このように個別に、あるいは小規模のクラスで学生の教育を行なうことで、本当の意味で学問が身につくと考えているのです。
日本の学校のように、先生が一方的に話をして生徒がノートを取るというようなスタイルは、アメリカやイギリスではありえません。生徒は教授と対等に議論しなくてはなりませんし、講義に出席したら発言することでクラスに貢献しなければいけないのです。
専門性を身につける「縦の学習」、幅広い教養を身につける「横の学習」
イギリスの大学では、入学時に専攻を決めて専門分野の学問を追究する、いわば「縦の学習」を行なっているケースが多いです。イギリスの教育では、大学に入る前に一般教養科目は修了して、大学入学以降は専門科目に特化した教育を行ないます。日本では、大学が4年間、大学院が2年間となっていますが、イギリスでは、大学は3年間、大学院は1年間です。短い期間内で専門性の高い濃い内容の学習をするのです。
一方、主にアメリカの大学では、リベラルアーツ教育(人文科学・社会科学・自然科学の基礎分野の教育)に重点を置いています。これは、理系・文系の境なく、専門分野の学習を行う前段階として身につけるべき基礎教養の位置づけであり、専門分野以外の学問も学ぶ、いわば「横の学習」となっています。
例えば、アメリカには「リベラルアーツカレッジ」と呼ばれる学校が複数存在し、少人数のクラスで、充分にケアの行き届く環境で幅広い教養を習得します。それに、総合大学・研究大学と呼ばれるような規模の大きな大学でも、1、2年次は主に一般教養を学び、3、4年次は主に専門科目を学ぶといったように、幅広い教養が身につくようにカリキュラムが設計されています。
私が通ったカリフォルニア大学も総合大学ですが、私は理系分野の専攻であったにもかかわらず、思想・哲学の講義が必修でした。その他、選択科目としてさまざまな分野の講義を履修することが義務づけられていました。
また、イギリスのオックスフォード大学では、前述の「縦の学習」に近いのですが、少し変わった専攻が存在します。例えばPPE(Philosophy, Politics and Economics:哲学・政治・経済)という専攻は、大学の看板学位とも言われています。これは、政治経済の思想はもともと哲学から派生したため、哲学も同時に学ぶ必要があるという狙いで設立された学位です。ほかにも広範な学問領域を横断的に学ぶことを求められるプログラムは存在し、例えばMathematics and Philosophy(数学・哲学)やPhysics and Philosophy(物理学・哲学)といった、まったく違う分野の学問を同時に履修するようなコースもあります。
こういった専攻では、「縦の学習」と「横の学習」を両方同時に行なって、文系・理系という分け隔てなく、根源的な問いに答えられる知識人を育成しようとしているのです。
このように、国や大学によって「縦の学習」と「横の学習」といったように学習の仕方が異なる場合があるので、進学・留学する際は、どちらが自分に合っているのかを見極めたうえで進路を選択する必要があります。
世界各国の優秀な人材のネットワーク
海外大学に進学・留学する大きな利点としては、やはり世界各国から来た優秀な学生や研究者たちとの国際的なネットワークが築けるということが挙げられます。私自身、イギリスに留学していたときには、イギリス貴族やオリンピック選手などの多様な人たちと一緒にプロジェクトに取り組みましたし、アメリカに留学していたときには、カンボジアの王族やベトナムの大富豪など、日本にいたのでは知り合えないような人たちと多く知り合うことができました。
また、イギリスやアメリカの大学には多種多様な学生が集まるばかりではなく、学生どうしの結束を強めるような仕組みも整っています。
例えば、オックスフォード大学では「カレッジ制」が導入されています。オックスフォード大学に通っていたとき、道端で観光客から「オックスフォード大学はどこですか?」とか「オックスフォード大学の校門はどこですか?」などと聞かれることが多々ありました。でもじつは、オックスフォード大学という建物が存在するわけではありません。38ある「カレッジ」をまとめてオックスフォード大学と呼んでいるのです。オックスフォード大学に入学するには、オックスフォード大学に入学許可を得ると同時に、いずれかのカレッジからも入学許可を得なければいけません。
カレッジ制は、日本にはなじみのないシステムなのでわかりづらいかもしれませんが、簡単に言うと学寮のようなものです。しかし実際にはそれ以上の役割を果たしています。それぞれのカレッジが、図書館、学生用の共用スペース、食堂、バー、スポーツジム、音楽スタジオ等を有しており、学生の大半はカレッジが所有する寮に住みます。前述の、大学教育の根幹を成す個別指導であるチュートリアルはカレッジで行なわれますし、カレッジ内の図書館で自主学習するため、必然的に生活や学習の基盤がカレッジ内になるのです。
ほかにも、カレッジや寮内で毎日のように何かしらのイベントや講義などが行なわれています。学生どうしの距離が非常に近く、一緒に過ごす時間も非常に長いので、学校を卒業してからも、在学中に築いたネットワークは消えないのです(ちなみにカリフォルニア大学サンディエゴ校でも、このカレッジ制が導入されていました)。
(筆者が在籍していたグリーンテンプルトンカレッジ)
またアメリカの大学では、寮が完備されているのはもちろんのこと、フラタニティ(Fraternity)と呼ばれる社交クラブが存在します。メンバーになると、フラタニティハウスと呼ばれる建物で一緒に生活をしたりパーティーを繰り広げたりします。メンバーどうしを「ブラザー」と呼び合い、一緒にいる時間も長いので、メンバーどうしは非常に仲が良くなります。また、女性のみで構成されるソロリティ(Sorority)というクラブも存在し、こちらではメンバー同士を「シスター」と呼び合います。
フラタニティは各学校に支部のようなものが存在し、いわゆる日本の大学のサークルのようなものから、政治家などを輩出する秘密結社のようなものまで、多岐にわたります。
(フラタニティのイメージ(カリフォルニア大学サンディエゴ校のフラタニティ Alpha Phi Omega))
それに、イギリスやアメリカの大学では、学生どうしの交流のほか、大学内外のすごい人々との交流もできます。
例えば、オックスフォード大学では「オックスフォード・ユニオン」と呼ばれる団体が存在します。これはいわゆるディベートクラブで、毎日のように、ディベートや、ゲストスピーカーを呼んでの講演が行われています。このゲストも非常に豪華で、どこかの国の大統領、グローバル企業の社長、ハリウッドスターといったそうそうたる人たちが毎週のように大学を訪問してスピーチを行います。しかもスピーチのあとには、彼らと一緒にパブでお酒を飲みながら話をする、なんてこともできたりするのです。
私も実際に、スターウォーズの監督であるJJ・エイブラムス氏や、ハリウッドスターのアンディ・ガルシア氏などの有名人と直接パブで話をすることができました。こういう世界的なリーダーたちとの会話を通して、自身が目指すべきリーダー像を見つけることができるんですね。
(スターウォーズ監督のJJ・エイブラムス氏(左)と筆者)
また、私が学部時代を過ごしたカリフォルニア大学サンディエゴ校でも、そうそうたるゲストスピーカーの方々が学校を訪れていました。私が留学していた年はダライ・ラマが訪問して講演をしていましたし、その前の年はビル・クリントン前大統領が来ていました。また、アメリカの大学の卒業式(学位授与式)には有名人が講演するのが慣例となっています。
こういった外部のゲストに加え、海外の名門大学で学ぶことによる大きなメリットは、なんといっても教授陣の質の高さでしょう。教授陣には特定分野の権威と呼ばれる人たちやノーベル賞受賞者も複数おり、直接教鞭をとって教えていますので、そのようなすばらしい教授陣に師事することができます。
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今回は、海外大学に進学する魅力をご紹介しましたが、これらはほんの一部に過ぎません。学生時代を海外で過ごすという経験は今後のキャリアにとっても人生にとっても大きなプラスになりますし、何事にも代えがたい貴重な経験となることは間違いないでしょう。機会があれば、ぜひとも海外進学・海外留学をすることをおすすめします。
【著書紹介】 高校中退後、日雇い派遣、路上スカウト、夜の仕事などを転々とし荒んだ生活を送るが、ふとしたことがきっかけで人生が一変。中学生以下のレベルの英語力から海外留学を果たす。カリフォルニア大学での「知」の授業、オックスフォード大学のリーダーシップ教育から学んだ戦略的思考法のフレームワークを明かす――
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